MicrosoftによるYammerの買収やOracleによるInvolver買収など、エンタープライズ寄りなソーシャルメディア関連のニュースが多数舞い込んできています。これらはすべて確かに「ソーシャルメディア関連」なのですが、その範囲が広い事もあり、ちょっとわかり難くなっている気がしています。
私達が提供している「co-meeting」というサービスも、ソーシャルメディアという言葉は使用していませんが、ある意味これらの一翼を担うものなので、なんとなく「わけの分からないもの」になってしまうのは困ります。ですので、現状この分野で最も一貫性のあるビジョンを描いている(と思っている)セールスフォースの「ソーシャルエンタープライズ」を軸に、現在の状況を整理しておくことにしました。
セールスフォースの「ソーシャルエンタープライズ」を軸に考えてみます
セールスフォースが昨年のCloudforceあたりから言い始めている「ソーシャルエンタープライズ」は社内SNSを代替する言葉では無いのですが、社内SNSを含有する言葉だとは思っています。また、この言葉は、サービスのカテゴリを表現しているものではなく、セールスフォースが世界のソーシャルメディアの状況を踏まえ、かつセールスフォースの現状および今後増えていくサービスの利用を通じて到達してほしい「企業の姿」を表現しようとしたものだと思っています。
引用元:セールスフォース・ドットコム 顧客の「声」を最大限に利用するソーシャルエンタープライズの実現を.
私は、2012年7月現在、企業のソーシャルメディアに関連する取り組みで最もわかり易く、一貫性を感じるのはセールスフォースだと思っています。上記の図で表現されている「従業員ソーシャルネットワーク」「カスタマーソーシャルネットワーク」「パブリックソーシャルネット」という3つの分類も理解できます。海外のベンダーの露出を見ていていつも唸らされるのは、自分たちが保持している材料によってあたかも全てを網羅しているかのように表現しているところです。ことソーシャルメディアに関して言えば、このセールスフォースの図が、もっとも秀逸だと思ってしまいます。
ソーシャルエンタープライズを実現する3つのステップ
セールスフォースは、ソーシャルエンタープライズに企業が到達するためのステップを、下記のステップで行う事を推奨しています。
- 顧客のソーシャルプロファイルの作成
- 従業員ソーシャルネットワークの構築
- 顧客と企業をつなぐカスタマーソーシャルネットワークの構築
このステップとそれを実現するラインナップ、セールスフォースの企業活動を読み解いていくと、競合各社の動きの意味が掴めると思います。まあ、裏をとったわけではなく、私の解釈なので、間違いがあればどなたか指摘してほしいですね。
ステップ1: 顧客のソーシャルプロファイルの作成
CRMを軸にしてきたセールスフォースらしいアプローチですし、この一貫したソリューション構成の中で、もっとも競合優位性をもち続けそうな分野です。
「顧客の」とありますが、この顧客の中には既存顧客と見込み顧客の両方が含まれていると思います。と言うのは、CRMによる顧客情報データベースの構築は従来から実施されていたと思いますが、それはソーシャルメディア普及以前の販売活動に即したもので、既存のチャネル経由の情報しか蓄積されていません。ですので、セールスフォースは自身が提供するサービスを活かして、既存、見込み問わない顧客のソーシャルプロファイルを現存のパブリックソーシャルネットワーク(Twitter, Facebook)から取得せよと言っています。
そのために提供、拡充している機能やサービス、そして施策が下記ですね。
- Radian6 (ソーシャルメディアの追跡とコミュニケーション、CRMとの連動)
- Buddy Media(ソーシャルマーケティングプラットフォーム、昔Crowyで目指していた姿を思い出す。プロファイルの管理からコミュニケーションダッシュボード、統計情報など、顧客との関係構築を支援する統合プラットフォーム:2012.7.17追記)
- Desk.com (ヘルプデスクサービス、Assistlyを買収後Desk.comと改名して提供。zendeskの競合で、メール、チャット、電話、Facebook、Twitterに対応、もちろんCRMと連動)
- Twitterとの戦略的グローバルアライアンス(Twitterのリアルタイム情報の取得制限は年々高まっているが、提携する事でそれを解消、Salesforce関連サービスは、ことTwitter情報の取得に関しては競合他社に対して大きなアドバンテージを持つ)
と言う事です。他にもあると思いますが、ソーシャルメディアからCRMに集めるためのチャネルの全てを押さえようとしているイメージですね。Radian6やDesk.comは、それ単体でも力を持つサービスだと思いますが、裏側にSales CloudやService Cloudを持っているため、その影響力が高まってくるわけですね。
ステップ2:従業員ソーシャルネットワークの構築
従業員ソーシャルネットワークの構築は、つまり社内SNSの構築を指します。ソーシャルプロファイルの取得は、そのまま企業に流入する顧客情報の増加を意味します。そのため、流入する情報の共有と処理のスピードを向上させなければ対処が出来ません。そのスピードアップのために、従業員ソーシャルネットワークの構築が必須だと言っています。
この理屈は、FacebookやTwitterを利用して情報のシェアやコミュニケーション、情報収集を行っている人にとっては説得力があると思います。既存のメールや対面、報連相手段では、まったく追いつかないだろう事も想定できます。つまり、従業員ソーシャルネットワークを構築せずにソーシャルプロファイルを取得のみを実施しても、情報が増えていくだけで意味が無いというわけです。
で、従業員ソーシャルネットワークの構築を実現する要になるのが「Chatter」です。Chatterが関連する全てのデータをフォローしたり、シェアしたり出来るのもCRMに蓄積されていく情報をスピード感をもって処理するためです。
そのためには、Chatterを利用したコミュニケーションスタイルを企業内に定着させる必要があるわけですが、社内SNSの導入でよく語られる「社内の風通しを良くする」や「アンオフィシャルなコミュニケーションを活性化させる」といった目的とは異なり、完全に業務に直結したコミュニケーション手段としてChatterを利用することを進めているわけですね。
現実に実現しているユーザーがどれだけいるのかは分かりませんが、私個人としては、この用途での事例が増えてくれる事を強く期待しています。
ステップ3: 顧客と企業をつなぐカスタマーソーシャルネットワークの構築
そして、最後がカスタマーソーシャルネットワークですが、これは前述のSTEP1、2の延長上で機能するものです。パブリックソーシャルネットワークから常時流入する情報を自社の製品情報や商談の進捗状況と連動したり、ソーシャルプロファイルに集約したりしながら従業員ソーシャルネットワークで解決して行動に移す。その過程は社内外のソーシャルネットワークが、セールスフォースのサービス群を経由して融合する事を意味します。上に貼った図が円形なのも、この一連の活動が継続的なものだからですね。どれか1つが欠けても実現出来ません。ステップ1で紹介しているRadian6やDesk.com、そしてBuddy Media等は、むしろこのステップで真価を発揮するものですね。
もちろん、セールスフォースが提供しているサービスを利用せず、その他の様々なサービスを組み合わせても実現可能ですが、1社で一貫して提供出来ているのはセールスフォースだけだと思いますし、この一連の流れを説明出来ているのもセールスフォースだけだと思います。
ユーザー事例として、この全体像を本当に実現出来ている企業がどれだけあるのかは分からないのですが、話を聞いていたり、自分が対応を受けていて感じるのはセールスフォース自身は実現出来ている感がありますね。
ここ最近のMicrosoftおよびOracleの買収の位置づけ
と、言うわけで、ここ最近の2つの買収話を整理すると、ここ最近で話題になったニュースが2つあります。
ここまで書くと、敢えて説明する必要は無いかもしれませんが、マイクロソフトのYammerの買収はChatterを意識した買収、つまり「従業員ソーシャルネットワーク」の部分ですし、Oracleの買収劇は、セールスフォースとは網羅範囲が異なりますが、「パブリックソーシャルネットワーク」への対応(Buddy Media等を意識している:2012.7.17追記)に特化した内容だと思っています。
どちらも「ソーシャル」という言葉を含めていますが、一方は企業内コラボレーションのためのツールで、もう一方はマーケティングツールです。最も影響力のあるセールスフォースが、その両者を見事に一体化した内容で表現しているため、その境界線が曖昧になっているわけですね。
ちなみに、私達が提供している「co-meeting」というサービスは、YammerやChatterと同様に、企業内のコラボレーションやコミュニケーションを支援するためのサービスです。私個人としては、上記における従業員ソーシャルネットワークの構築や、それを利用して成果を上げる「企業内の動き」に興味があります。もちろん、マーケティング寄りの動きにも興味はありますが。。。
そういう意味で、顧客との関係構築や販売活動に関わる情報量が増えていて、そのための体制作りのために「従業員ソーシャルネットワーク」を構築して生産性を上げる。こういった取り組みや事例が増えてくれるのはありがたいです。
この分野をもっと活性化させていきたいですね。